本田 健 × 本田 恵美

2017年7月11日(火)~7月23日(日)

 

自分自身と向き合う

大野正勝(岩手県立美術館上席専門学芸員※)

 

モティーフとして、あるいは素材として本田恵美が一貫して注目し続けてきたものは幼い頃に浜辺で見つけた波と砂に洗われ風化した貝殻の白さである。彼女の柔らかく澄んだ優しい気持ちは、そんな象牙質の貝殻のように光をたくさん含むことができる白いモノとの間で交感が果たされてきた。それらとの関りから作り出された「天心」「Breath」「仕草」と名付けられた比較的小さな白い造形物は、どれも円環のような完結した形をしていて、感覚的に自覚または意識される彼女自身の身体や感情が無意識のうちに形になって表れてきたものである。さらに、その一連の制作の新たな展開として最近始められた「あめつち」は、作品の体質(組成)と形体から前出の3つのシリーズよりも、より直接的に彼女自身の身体的なイメージを連想させる。本田恵美は、日々感覚的に感じ取る自らの生命を大切に見つめながら、その実感やイメージが目に見え、手にすることができるような形として立ち上がってくるのを静かに待っているのではないだろうか。

 

本田健は、手を加えたり抗ったりすることなく無為であることを自らに課すようにして、30 年ほど前から暮らす岩手県遠野市の里山の景色を写真撮影したそのイメージを画面に拡大して引き写すようにチャコールペンシルで描き続けてきた。そうした作品は恣意性が極力排除され、ひたすらチャコールペンシルを淡々と規則的に動かすことで出来上がる。制作は日に何時間も描き続けられ、完成までに数か月から長い時は1年ほど要するという。描画は単純作業だがその時間の長さは苦痛に近い。一方、チャコールペンの仕事と拮抗するかのように油彩画も描く。自宅縁側の鉢植えの植物や庭先にあるものを油絵具を厚塗りすることで描き出しているが、物性を感じさせる油絵具の厚みが物語るように、少しばかりの自虐性を含みながら彼の内部に湧き上がる自己世界のエネルギーを生気のない一塊のモノへと変換しようとするかのようだ。そんな苦しい行為を隙間のない濃密な絵画空間の中に閉じ込め、命が尽きた化石のように提示したいと考えているのだろう。どこかチャコールペンシルの作品に通じるものがある

 

 

※2017年当時岩手県立美術館、2018年4月より川崎市市民ミュージアム館長